風が強かった。
冷たい風に吹かれながら、やっぱり冬が好きだと感じた。

冬の風は総てを平等に突き刺して逝くから。
世界のくれる痛みを感じてるのは俺だけじゃないって思えるから。


横浜も川崎も、よく風の吹く街だった。

今日みたいな風の強い冬の日。
風邪をひいた君を連れて病院に行って。
帰りにアーケード街のはずれで、60代くらいの夫婦のやってる焼き芋屋さんに寄ったんだ。
おばさんが他のお客の相手をしてるうちに、おじさんがおまけしてくれた。
冷たい風にかじかむ手を、少し強めに握って。
でっかい焼き芋を4つも持って帰った。
なかなか食べきれなくて、何度も電子レンジで温めたっけな。
そんな、どうってことない日常が幸せだったね。

可能な限り、いつも二人一緒に居て。
そうやってずっと傍に居たかった。
幸せな時間がずっと続けばいいと思ってた。

二人とも卒業が見えてきて。
二人で暮らしていくなら、ちゃんと結婚しようって二人で決めたね。
そのための努力もたくさんした。
君は迷いながらも卒業後の進路を決めて。
学校の説明会も、入学式も、一緒に行ったけど周りは50代くらいの親ばっかで俺は浮きまくってた。
生徒の方が歳近いんだから当然だけどなw

当然仕事もしなきゃなんないから、就活も必死だった。
世の中そんなに甘くないから、20社以上受けても全然内定もらえなくて。
落ち込んだりイラ立ったりしてる俺を、ずっと隣で励ましてくれてたね。
二人で暮らしてくための努力を、協力してやってきた。

あの頃みたいな幸せな時間を、二人でじゃれあって笑っていられる時間を守るために頑張ってた。

君は学生のまま、俺は社会人になって。
少しずつ生活時間もずれてしまって。
俺だけ大人になっちゃったみたいで、置いていかれた気がしたって言ってたね。
俺だって、一日中二人で一緒に居られた、あの頃のままでいたかったよ。
けど、二人で暮らしていくには大人にならなきゃいけなかった。

「帰ってきても、昼間一人なんだよね」

そう寂しそうに言ってた。

仕方ないことなのかもしれないけど。

二人で暮らしてくために必要な努力の結果が、「一緒にいられなくて寂しい」につながってしまうのなら。
俺はどうしたら良かったんだろう・・・
いっそのこと留年してバイト生活の方が、まだ融通が利いたのかもしれない。
・・・二人で暮らしてくために、一緒にやってきた努力の意味とか、ときどきわからなくなるよ。
望んでた仕事に就けたけど。
楽しいことばっかじゃないし、合わない先輩もいるし。
それでも、守るものがあるなら頑張れた。

二人で一緒に笑っていられるために、一緒にやってきたはずなのに。
俺は今なにをしてるのか。
今はなんのために必死で踏ん張ってるのか。
「無理すんなよ〜」
って言われても。
無理じゃないときなんかねぇよ(苦笑

絶望。
喪失感。
殺意。

馬鹿でかい穴と傷とを抱えたまま過ごして。
ようやくそれを受け入れ始めてる。
これからなにがあろうと、この傷が完全に埋まることなんてないのかもしれないとも想う。
残りの人生全てと引き換えにしても殺してやりたいって想いもある。

でも今は。
全部受け止めて、背負って、そうやって生きていけそうに感じてる。
それでも多分愛しているから。
執着じゃなく、全部受け止めて愛してるから。

キャパだけは無駄にでかくなったけど。
MAXがでかくても現在値が低いんじゃあんまり意味ねぇなー(苦笑
ろくに休みもねぇし。
土日は勉強と資格試験で潰れたし。
今週は土曜まで研修入っちゃったし。
・・・逢いてぇな。
今までで一番素直に話せそうなのに。

ワンルームの決して広くない部屋で、二人で寄り添うように暮らしたね。
今も君は・・・あんな時間の中に居るのかな?
今も、あの頃のように幸せですか?
帰りたいな・・・
あの時間の中に留まっていたかった。
そうしたらずっと二人で居られたのに。


12月の街は賑やかで。
煌びやかに飾られた景色は、否応なく一人を意識させる。
いつも握ってた、隣にいるはずの君の手はなくて。
ポケットの中で軽く拳を握った。
イルミネーションが眩しすぎて。
少しだけ景色が滲んで見えた。

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K

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