歌うのは好きだった。
音楽を聞くのも・・・自分では気の向いたときしかかけないけど。
君のかける曲をなんとなく口ずさんで。

ときどき君は突然言い出したね。
「なんか歌って」って。
お気に入りのラブソングやちょっとだけ元気の出る歌を、君のためだけに歌った。
だから俺の好きな曲は、どれも君との想い出につながってて。
なにを歌っても君が想い出される。


雨の日曜日。

祐美とカラオケに行ってた。
一人きりで過ごした一ヶ月の寂しいときに、話し相手になってくれてた娘。
しばらく振りに連絡取って、君とよりも・・・彼女との方がメールの多い日もあったくらいだった。

二人で暮らした部屋に一人取り残されて。
寂しくて。
一人で居たくなくて。
君は彼の部屋で彼と二人。
なにもないなんて思ってないから。
君が好きだから、今頃なにしてるかなって考えて。
彼とイチャイチャしてる君を想像して凹む。
嫉妬が憎悪を呼び起こし、必死で自分を抑え込む。
自分のせいでもあるってわかってる。
君だけを責められるもんでもないってのもわかってる。
それでも。
それで痛みが消えるはずもなく。
軋む魂が身体を締め付けて。
煙草が増えて。
眠れなくて。
泣きながら胃液吐いて。
そんなのを繰り返しながらいつか力尽きて眠る。

一人で過ごす時間は概ねそんな感じで。

雨に閉じ込められてるのが辛くて。
話の流れで気晴らしに遊ぶことになって、雨の中を彼女の住む街まで行ったんだ。

気晴らしに叫びたかった俺は後先考えずにシャウトして。
スッキリするもんだと思ってた。
なのに。
歌う歌すべてが心に痛い。
俺の持ち歌なんて、ほとんどすべてが君に歌ったことのある曲で。
どんなに甘いラブソングでも、歌いながら想うのは目の前に居る彼女ではなく・・・・
失礼な話だよな。

気分を変えようと思って歌ったのは、天体観測だった。
久々だし、あんまり関係ない勢いのある曲をと思って入れただけだったのに。



予報はずれの雨に打たれて 泣き出しそうな
君の震える手を握れなかったあの日を

見えてるものを見落として 望遠鏡をまた担いで
静寂と暗闇の帰り道を駆け抜けた
そうして知った痛みが いまだに僕を支えている
「イマ」という ほうき星 今も一人追いかけている

もう一度君に会おうとして 望遠鏡をまた担いで
前と同じ午前二時 フミキリまで駆けてくよ
始めようか天体観測 二分後に君が来なくとも
「イマ」という ほうき星 君と二人追いかけている



見えてたはずなのに見落として。
泣いてる君をただ抱きしめることしか出来なくて。
なんにも出来なかった自分が悔しくて泣きそうになった。

誰と居ても、結局君の事ばかり考えてる俺が居た。

彼女はとてもいい娘で。
客観的に見ても結構可愛いと思うし、性格もいい方だと思う。
少し内向的だけど、俺には結構話をしてくれるし。
「しゃべるの得意じゃないから、付き合った人に飽きられちゃうんだよね」って寂しそうに微笑む娘で。
君が妬いてくれるかなとか考えてたときには、彼女のそんなところを可愛いと思えて。
好きになれるかもしれないと思ったんだ。
君との半端な距離が辛くて。
勝手に期限を設けて終わりにして楽になったはずなのに。
もう本当にやり直せないんだと思ったときから、すべてが色褪せて。
彼女のために、自分のために、頑張って話を盛り上げようとしてる自分が凄く辛くて。
一緒に居るのが苦痛になってた。

結局俺の心には君が棲んでて。
本当に愛せるのは君だけなんだと実感させられて。
もう君以外じゃだめなんだと感じた。


どうにもならない痛みと後悔とを抱えたまま日常に戻って。
泥酔したあげくに今更「愛してる」なんて言って。

開き直ってやっと素直になれた。
立ち止まってしまったら追い越されても、奪われても仕方ない。
だから進化し続けよう。
君が誇れるような俺であるために。
もう一回惚れさせてやる。
君のために。俺のために。
二人のために成長を続ける。
今度こそ共に歩ける日のために。
もう一度君に選んでもらえるようないい男になって口説き落としてやる。

そう決めたんだ。
たとえこのまま離婚することになっても。
俺はやっぱ君がいい。
君じゃなきゃ本気で愛せない。
君とじゃなきゃ、本当の幸せなんか掴めない。
だから必ずいい男になって口説き落としてやる。
自分を犠牲にして耐えるんじゃなく。
この世界で君を一番愛してるのは俺で、君と本当の幸せを掴めるのも俺だと思ってるから。
こーゆー愛し方の方が俺らしい。
君が愛してくれた俺はそーゆー俺だしね。

一ヶ月もかかってやっと自分の本来のスタンスを取り戻したから。
ちゃんと全部片付けることにした。
祐美の態度は段々本気になってきていたけど。
俺は彼女じゃだめなんだと気付いてしまったから。
他の誰でも、君じゃなきゃだめなんだと気付いてしまったから。

別れ話をした。
・・・別にまだ付き合ってるわけでもなかったんだけど。
彼女の住む街のマックで、2時間近く話をした。
理由も全部話した。

君を忘れられないこと。
忘れたくないこと。
縛られているわけじゃなく、俺自身が今も君を愛していて、その想いを打ち消す気もないこと。
俺が本気で愛してるのは君で、彼女を愛すことは出来ないこと。
きっと、他の誰も愛せないこと。

彼女は・・・泣いた。
俺が泣かせた。
彼女にはなんの非もなくて。
好きになれるかもしれないと思った俺が、彼女が本気になるように立ち回ってたからいけないのであって。
彼女には俺を責める権利があるのに。
彼女は俺を責めることは最後までしなかった。
ただずっと泣いていた。

俺に出来るのはティッシュを差し出すことくらいで。
俺が傷付けて泣かせてるのに、なにも出来なかった。
抱きしめてやる資格なんてないんだから仕方のないことではある。
けれど、俺は自分を呪うことしか出来なかった。
首にさげた君の指輪に、Yシャツごしに触れながら自分に言い聞かせた。
なにも出来ない。なにもしちゃいけない。
俺が本当に抱きしめたいのは彼女じゃないから。
両手で抱きしめて離したくないのは君だから。
・・・好きになれるんじゃないかと思ってた。
・・・だけど。
彼女だけ本気にさせて。
なにも悪くない彼女をたくさん泣かせて。
最低だな俺。
ほんと最低・・・・

なにが正しいのかなんてわからない。
だけどこのままじゃケジメがつかないし、彼女を傷付けるだけだし。
これで良かったはずなんだ・・・・多分。

自信も確信もないまま、耳からは彼女の嗚咽が離れない。
最後に、泣きながら「頑張ってね」って言った彼女の気持ちが痛いほどわかるから。
本当にごめんなさい。

・・・・・・・・・・・・
こんな懺悔をしても、俺はなにも許されやしない。

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K

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