雨に閉ざされた部屋。
一人には広過ぎるこの部屋は、まるで灰色に染まった水槽のよう。

この水槽にはなにもない。
この虚無を埋めるものは何一つ。
燻らす煙草の煙が、水槽を濁していく。
吐き出す息はにごった煙。
それは多分、虚ろな僕の壊れたかけら。

強くなる雨が暗示するのは、この世界による僕への拒絶。
閉じ込められた水槽の中でさえ、僕に居場所はない。
雨が窓を叩く音しか聞こえない無音の水槽。
吐き出すのは煙とため息。
流れ出すのは涙と想い。

見せてはいけない。
聞かれてはいけない。
知られてはいけない。

知ればきっと傷付いてしまう。
知ればきっと迷ってしまう。
だからなにも満たすもののない水槽を、ただ想いと煙で埋めていよう。

そして僕は物言わぬ貝になる。
煙を吸ってため息を吐き。
想いを飲み込んで涙を流す。
そんな生き物になる。
世界が僕を拒絶するなら、世界を拒絶する殻をもてばいい。
呼吸し存在するだけで痛みを感じる生き物に。
それでも尚生きて応える生き物に。

広過ぎる水槽の底で僕は貝になる。


一人で暮らしていた頃でさえ多かった独り言。
それすら吐く気力もないほどの無力感に潰されて。
雨に閉ざされた水槽で、ただ痛みを伴う生を感じる。
届かない言葉はため息に変えて。
届かない想いは涙に変えて。
ただ垂れ流されていく、”愛”だったもの達。
壊れた僕と、壊れた愛の、かけらだけが水槽を満たして。
僕は溺れていく。
痛みと拒絶しかくれない世界を憎む。
いっそなにも感じられなくなればいいのに。

それでも僕は生きなければならない。
枷になるわけにはいかない。
重荷になるわけにはいかない。

君に妬かせるつもりで他の娘と会ってたときは、遊びだと割り切ってたからか、楽しんでる俺がいた。
もう君には本当に届かない。
そう知ったときからすべてが無為になった。
本当に僕はあのとき楽しかったの?
本当に僕は彼女を好きになれるの?

手近なCDを差し込んで流れる歌は、水槽の水を少しだけ変えてくれる。
歌詞を思い浮かべながら小さく口ずさむ歌は、どれも君を想って歌った詩だった。

この世界は痛みしかくれない。
なのに僕は生きなければならない。
元気な振りをして。
幸せな振りをして。

今の僕はモノクロのヒマワリ。
君という太陽に焦がれる、焦がれ続ける、だけど決して満たされない、鈍色の花。
痛みに耐える殻をもとう。
呼吸するだけで、思考するだけで耐え難い痛みが生まれるとしても。
魂が軋む音も。
胸が啼く悲鳴も。
君に届けてはならないから。
物言わぬ貝になる。

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K

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